「千と千尋の神隠し」の謎に迫る
「千と千尋の神隠し」はジブリ作品の中でもっとも深い映画だと思っています。
映像、音楽、演出、すべてが深いところで絡み合っていて、「ああ、そうなのか」という発見が多々ある映画です。
この映画の音楽の使われ方を例に出して、僕なりの「千と千尋〜」解釈を述べてみることにします。小難しい話が苦手な方は読まない方がいいかもしれません。
「千と千尋〜」では様々な曲が使われています。
大きく分けると、木村弓さんの歌う主題歌、ピアノの旋律から始まるメインテーマ、そして、ラスト近くの海列車でかかるピアノ主体のノスタルジックな曲、そして“その他”の曲です。
“その他”の曲ですが、これは風景や感情を表す「叙景」「叙情」の曲です。
これらは一般的な映画音楽と同じポジションにあります。
しかし、メインテーマ、そしてラスト手前のノスタルジックな曲のポジションは違います。
この作品のすごかったところは、作品の本質を、この2曲に凝縮していたことなんです。
ピアノの旋律が美しい、メインテーマ。
しかし「千と千尋〜」では、このメインテーマがかかるシーンはほとんどありません。
メインテーマは、監督がもっとも観客に訴えたいシーンのみで、使われているからなのです。
普通の映画では、情景描写などで、メインテーマのアレンジバージョンなどを使ったりすることがありますが、この映画は、良い意味で、曲の位置づけをしっかり固定しています。
メインテーマのアレンジバージョンは存在しません。
ここぞ!というところで、メインテーマを流しています。
メインテーマがフルコーラスで流れる部分があります。
それは、千がハクに「おにぎり」をもらい、涙ながらに食べるシーンです。
つまり、そのシーンに、監督が最も伝えたかったことがあったということです。
僕は「千と千尋」のテーマを、「現代社会に埋もれてしまった、“生きる”ということの本質」を見直すこと、だと思っています。
現代は、働けば働くほどお金がもらえ、贅沢ができる世の中です。“自分らしさ”を失っても、お金が欲しいから働く、という方もいます。
よく漫画で“欲望渦巻く世界”という例えがありますが、現実の世界はまさにお金で動く世界です。
「千と千尋」の“湯婆”の世界では、度々「仕事」「お金」「お客様」という表現がでてきますが、それは現実世界を投影したものです。
そして、“千”が“顔なし”と向かった“銭婆”の世界は、古き良き日本を表しているのだと思います。
銭婆は湯婆と同じ魔法使いですが、髪留めを作っているときに「魔法で作っても仕方が無い、みんなで紡いだ糸で作らないと意味がないよ」というようなことを言います。
そのシーンが言いたいのは、「お金」=「魔法」ということ、つまり「人のぬくもりはお金で買えない」ということなのでしょう。
先ほどのメインテーマが流れていた「おにぎり」のシーン、その「おにぎり」はハクが作ってくれたおにぎりです。
自分が本当に困ったとき、助けてくれるのは『人のぬくもり』なんだよ、ということを伝えたかったのだと思います。
メインテーマが使われていたからこそ、それがこの作品の最大の主題なのでしょう。
そして、ラスト近くのノスタルジックな曲が流れる海列車のシーン。
あのシーンに、なぜあえてノスタルジックな悲しげな曲を持ってきたか?
そこにも監督の意図があると思います。
あの海列車は、現在の欲深な世界から、監督が思う“過去の良き時代”へ運んでくれる列車なのでしょう。
そして、あのシーンでは、監督が現代に抱いている“寂しさ”を表現したかったのだと思います。
単に「不思議な電車が海の上を走っている、すごい〜」という情景描写をするだけなら、あんなノスタルジックな曲は使われなかったでしょう。
(昔のジブリ作品ならもっと分かりやすい曲が使われていたと思います。「千と千尋」は監督にとって、自分のメッセージを今まで以上に強く込めたかった作品なんだ、ということが伝わります。)
海列車は途中、知らない駅に止まります。
そこで列車に乗っていた人達は降りていきます。
駅のホームには、一瞬遊んでいる?子供が写りますが、どの人物も顔にはシルエットがかかっています。
あの人物たちが表現しているのは、古き良き時代に生きていた人達だと、僕は思っています。
そして、顔にシルエットをかけているのは、表情を分からないようにする意図、すなわち、監督なりの観客への配慮だったのだろう、と。
監督にとって昔は良い時代だったかもしれません。
ただ、映画を見ている観客の皆がそう思っているとは限らないのです。
昔より贅沢できる現代社会の方が良い、と思われる方もいると考えたのでしょう。
途中の駅で遊ぶ子供の顔を、笑顔にするのも悲しげな顔にするのも、認識の押し売りになってしまうため、あえて表情付けは行わなかったのだと思います。
おそらく本当は、子供の顔を笑顔にしたかったはずです。
ただそうすると、現代が悲しい世界だということを、強く押し売りしてしまうのかな、と思いました。
うーむ、深い! 考えれば考えるほど深い映画でした、これは。
色々書きましたが、まだまだ書き足りません。
それだけ、「千と千尋〜」は『音楽の使われ方』が深い映画です。
お時間がある方は、『音楽の使われ方』に注目して、もう一度観ていただくと面白いかもしれません。
ピアニスト松尾のプロフィール
作曲家、ピアニスト。
数多くのライブ、レコーディングでピアノ伴奏の技を磨き、大手レコード会社所属アーティストのライブサポートやレコーディング、大手舞台音楽制作の助手や、某音楽番組のバック演奏等の仕事をこなす。
2005年「SONY MUSIC」主催の「歌伴コンテスト」でソニー賞を受賞。YAMAHAの公式サイト内「ハミングパーク」ではピアノ講師として出演した経歴も持つ。
2008年、レーベル「京都音工房」の立ち上げに参加。
WEBクリエイターとしても活動しており、音楽とWEBを絡めたコンテンツを多数配信中。
京都在住の29歳。
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